最後の証人Page.5
それから、2週間後。
仕事から帰ったら、Mちゃんから留守番電話が入っていた。
「他の同級生とかじゃなく、いちばん最後に逢ったのは、ユミさんだから、伝えておきます。Yちゃん、亡くなりました・・・」
畜生、嫌な予感が、当たっちまった・・・!
急いであたしはMちゃんの所に電話をかけた。
Mちゃんは泣きじゃくりながら、受話器の向こうで自分を責めた。
「ケンカ別れなんてするんじゃなかった。あと、ユミさんが電話をかけてきた時、あたしが実家に連絡のひとつでも入れていたら、こんな事にはならなかったよね・・。」
「Mちゃん、それは、仕方ないよ。・・・あの時、その場にいなかったし、あたしも多分、言葉が足りなかった所はあったしさあ・・・。それを言ったら、あたしだって、あの時、逃げてるんだよ?・・・でもね、あたし、あの時は、自分が出来る精いっぱいの形が、あれ以上でもあれ以下でもなかった。あたし、最後にYちゃんに会えて、自分なりの精いっぱいの形で接してあげられて、良かったと思ってる。Yちゃんの人生を背負え、って言われても多分あたし達には、何にも、やりようが、なかったんだよ。・・・こんな結果になったのは、本当に仕方がない・・。自分を責めたって、もうどうしようもないし、それぞれが、それぞれの速度で生きるしかないんだよ・・。」
と、ここまで口にした所であたしも、絶句した。
死因はなんだか、結局聞ける事はなかった。
Mちゃんは、静岡の葬式に出たので、お母さんと話をしたらしい。
が、死因の事となると、お母さんは口を閉ざしたらしい。
あたしの言っていた事も、伝えてくれた、が、お母さんは繰り返し、「色々な人が色々いってきてくれたけど、娘は、狂ってなんかいなかった。」と、言っていたらしい。
まるで眠っているような顔だったらしい。同級生のみんなでお化粧をして送ったという。
冗談の好きな彼女だったから、みんなで枕元で冗談を言って。
Mちゃんは、彼女の部屋の残り物を整理するために、東京に来たらしい。
彼女の部屋には、大切に昔の彼・・・Kちゃんの写真が大切にとってあったらしい。
Kちゃんには、彼女の死を知らせなかったと聞いた。
彼女の部屋には、友達が来ているなんて事は、いちどもなかったらしい。
あたしは、葬式には出られなかったので、区切りがつけられないままでいる。
そう、抱きついた時の体温もかすかに、まだ肌が憶えている。
「何もしてあげられなくて、ごめんね」と繰り返した彼女の甘い声を思い出していた。
・・・それはこっちのセリフ。だけど、一生のうち、誰かに何をしてあげられるだろう?せいぜい、出来るとすれば、ほんの僅かな間だけ、側に立っていられる事と、あたしが見たその姿と背景を、自分の中で化学変化させて唄にして唄うことぐらいしかあたしには出来ない。誰かの人生を背負うなんて到底できなくて、せいぜい自分が立っているのが精いっぱいだ。
彼女は27才だった。若すぎた。彼女が狂っていたか、そうじゃなかったかは、今となってはあたしには判らない。が、なぜだか少しずるいよ、と、感じてる。
後に生き残る者ってのは、いつも、その思い出を自分の中でなんとか消化して、それからも生きなければならない。だけどそんなもんは、簡単には消化出来る筈がなく、ただ時間の階段を、少しづつ上がっていくしかないのだ。
やみくもに階段を上がっている。昇っても昇ってもまだまだ階段がある。階段の途中で時々振り返る。きっと、あたしが思っているこの瞬間も、過去になればきっと、もう細かくは思い出せないだろう。とりあえず、先を見る。階段の到達点なんて見あたらない。やみくもに登り続けるしかない。あたしは自分がどんな風に死ぬのかも知らない。時々、もう、いっさいがっさいを止めてしまいたくなる。考えても、考えても答えなんて、ない。だけど、少し時が過ぎれば、いくらか解決した気になってまた歩き出す。繰り返している。正直言って、あたしは疲れている。だけど、歩くのを止める気分にはまだなってはいない、けれど。
だけど、彼女の時は止まってしまった。彼女にとって新しい朝は、もう、来ない。
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