ジャパニーズ・オールド・マンの後ろ側 Page.2


 父親は、海軍の中尉さんだったそうです。小さい頃、死ぬほど戦争の話を聞かされていて・・そこら辺はあの唄の通りです。でも、うちの父が生きてたら、あの「歯をくいしばっても〜・・」って、それは陸軍だっ!と、横っつら殴られそうだけど、でも、あたしが言おうとしていたのは、本当に我慢なんかしてても痛みなんて消えなくて、・・それが陸軍であろうが海軍であろうが、自分の父親がそこまで隠し通していた痛みの本質を・・聞いたことがなかったんですよ・・。昔から帝国主義な人でね・・(笑)・・何か反論すれば、「お前は間違っている、アカだ!」とかね・・(笑)考えてみたら、あたしが、自分の一生をかけて、唄を唄っていくって事も話し合った事なくて、その頃にはぼけてしまっていて・・。 本当はもっともっと色々ね、話をしたかった。

 

戦争に行って帰ってきてきら、半身悪くして、・・・働いてなくて、うちの土地の切り売りして食いつないでいたみたいだから、これは一般社会から言えば本当に隔絶していて・・働いている父の背中を見た事がなくてね・・・。それで、「日本が一番だ」みたいな事を昔から繰り返していて、きっと彼にしてみれば・・多分それにすがるしかなかったんだろう・・と、大人になった今では、何となくそういう気がするんです。そう言わずにおれなかった父の弱さというのも何となく判るんです。死んでから言ってもね、、仕方がないけど・・やっぱり、うちの父をそうさせてしまった戦争ってのが、いいわけないよね・・と、亡くなる寸前の父の枕元で、母と話しました。そして、うちの父と母が知り合ったきっかけ、とか、ほら、ほら、手の形とか、足の形って、似るよね〜、やっぱり不思議だよね、、命って・・これ、憶えておこうねぇ・・なんて、意識不明の父の枕元で、母と色々話しをしました。この人が生きていた事を、忘れてしまわないように・・。そして、あたしは、ぼんやりと、ああ、この人と、人生観について腹を割って話した事なかったよなぁ・・なんて、思いました。

 

 実は、沖縄ってきっかけがなければこの曲が完成する事も、公表する事もなかったんでしょうが・・「ジャパニーズ・オールド・マン」の元の詩は、その・・父が亡くなった頃から、少しづつ書いていて、でもどれも・・納得いかなくて、やっぱり、自分が生まれてきた頃から関わっていた人の唄だから、一曲で全てを言えるって・・なくって・・どんな方法にすればいいか自分でも判らなくて・・結局、こうして形になるまで、4年かかってしまいました。実際に曲を作りまとめたのは、沖縄行く前の数週間だけど、・・もう最後の方は、あたし、気が狂う寸前で・・。お涙頂戴にもしたくなかったし・・半端な事はやりたくなかったし、誰が聞いても判る唄にしたかったし。でも、最後の方で、「ありのままを言えればいい、これ以上でもこれ以下でもない!あたしが知っている戦争は、たったこれだけなんだ!」ってやっと糸口がつかめて・・結局シンプルな言葉達が出てきて・・。

 

 でも、多分あたしが戦争について知っている事は、あの唄に全て込めてしまいましたから、もう、あたしが戦争について唄う事は・・多分ですけど・・ないでしょう。あれがあたしが戦争に関わってきた事全て。あたしが「戦争」について実際に見た事、感じてきた世界・・全部。

 

 自分の父に関しての唄を唄う事についても勇気のいる事でした。うちの兄なんかはね・・「本当にそのまんま書いたね・・あの人の子供としては・・そんな唄を唄って欲しくない」なんてね・・。だけど、あたしは、あの人の子供だから、言える事があるんだ・・とね、思って。今は兄は、黙ってあたしを見ていてくれています。あたしの母はどう思うでしょうか?この曲出来たのは去年の5月で、9月頃野外のライブでやったんですが、そのライブいつも母来てくれてたんだけど・・たまたま、来れなくて、選曲に勇気だしてこの曲入れていたんですけどね・・。でも、母とは色々父が死ぬ直前の枕元で話しましたから・・たぶん、母もあたしの唄っている真実を許してくれると思う・・まだ、聞かせてないけどね・・。二人して、話していましたから・・「戦争なんて、いいわけないよね。」

 

 だから、正直言って、この曲をネットで配布する事もすっごく勇気がいった事なんですけど、・・誤解を受けたら・・「戦争シンガー」なんて、レッテルのついちゃう事だし。でも、あたし、やれるだけやったから・・自分のソングライターとしての力量も全て出したし、その力量も信用してるし。そして、聞くみなさんに失礼も押しつけもないようになるべく配慮したつもりです。そして、この曲はひとつの事実として、それでね・・唄を聞く皆さんと、あたしと対話できればいいなぁ・・と。

 

いい訳なんか、ないですよね、、戦争なんて。

 

 


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